独り人形詩 第一話 人形師

着飾って 着飾って 


でられて でられて それが



でられなければわたしの存在意義が無いから


でないやつは呪えばいい!


   
さあ わたしをでて!遊びましょ!



 





01 人形師





レンガの家が連なる町並み。静かで、時々鳥の泣き声が聞こえる程度。
そんな町にガラガラという音が響いた。

茶色い髪をくるくるとカールさせ、赤いリボンをつけ
かわいらしいフリルの洋服を着た少女が一人、荷台を引っ張っていた。
見掛けからは何処かのお嬢様のようで、荷台は不似合いだった。

荷台にはたくさんの衣類やたんす、机などがあり、引っ越しでもしてきたようだ。

小さな家にたどり着いた少女は、ふぅと一息ついて荷台を置いた。
小さな家だが、そこは一人で住むには大きすぎるくらいの大きさだった。


「おや、一人でお引っ越しですか?」
突然話し掛けられ、驚いて少女は振り向いた。
そこにいたのは、青年だった。長く綺麗な金髪を青いリボンで一くくりにしている。
前髪はさらさらで長く、右目は隠れていて見ることができない。
にこにこ笑っている青年は誰が見ても美青年と思える顔立ちだった。

そんな青年に少女は少し顔をしかめて
「…誰」
とぶっきらぼうに言った。

「ああ、すいません。名乗るのが遅れました。
 私はこの家の向かいで店を出しているローウェンです。 ローウェン・ローレルと申します。」
態度の悪い少女に対してローウェンは笑顔で答えた。

「…ふぅん。私はジェシカ。この家に引っ越してきたの。よろしく」
「はい、よろしくお願いします。
 この家、ずいぶん長いところ空き家だったみたいで…
 人が増えるのはうれしいですね。」
「そう」
まったく興味のなさそうな返答をするとジェシカはローウェンが言っていた店に目を向けた。
小さな店。ショーケースにはかわいらしい人形が並んでいる。

その様子に、ジェシカはさらに眉間にシワを寄せた。

「あんた、人形売ってるの?」
「ええ。自分で作って売っているのです。人形はお嫌いですか?」
「…嫌いも何も、大っ嫌いよ」
それだけ言って、ジェシカは荷台の荷物を家に運び始めた。
そんなジェシカに、ローウェンはすこし悲しそうな顔をしたがすぐに笑顔に戻った。
「手伝いましょうか?」
「結構よ!」
優しいローウェンの声にキリキリした声でジェシカは答えた。
その様子にローウェンは苦笑し、ジェシカに「ではまた」と挨拶をして自分の店へと帰っていった。


「なんだか怒ってばかりで怖い人ね!」
店の中にかわいらしい声が響く。だが声の主は何処にも見えなかった。
そんな声にローウェンは少し笑って
「そうですか?とてもかわいらしい人でしたよ」
と答えた。

「そうですか!」
かわいらしい声はローウェンにすこし生意気に返事をした。
「おや、メアリーはあのような人は苦手ですか?」
「苦手もなにも大苦手よ!」
メアリーと呼ばれた声は少しジェシカの物まねをして答える。
そんな会話のなか、ローウェンは一体の人形に近づき抱き上げた。
売られている人形とは全く雰囲気のちがう、ぬいぐるみのような人形。
その人形をローウェンは愛しく撫でた。

「だって、人形を大嫌いだなんて失礼しちゃうわ!」
「ああ、それで怒っていたんですね」
どうやら声の主、メアリーはこの人形のことらしく、ローウェンは人形に話し掛けていた。

「人間にはいろいろ居ますからね。人形が好きな人もいれば、嫌いな人もいますよ」
「でも、失礼しちゃう!」
「まぁまぁ、大きな心を持ちましょうよ」
「むぅ」
黙ってしまったメアリーにローウェンは笑う。

「ローウェンさま、ローウェンさま」
次に聞こえてきたのは単調な落ち着いた声だった。
「どうしました、ティオリィ」
ローウェンはメアリーを抱えたまま奥の部屋へ入っていった。
その小さな個室にはローウェンの作業道具。
それ以外に西洋人形やら木製人形やら、たくさんの種類の人形が置かれていた。
どの人形も売られている人形とは一風違っている。

その人形の中で、ローウェンは民族工芸のような人形の前に立った。
どうやらこの人形が「ティオリィ」らしい。
ティオリィは落ち着いた声で喋りだす。
喋る、といっても口は動いていないのだが。
「ローウェンさま、大変です。あれを、見てください」
「?」
ローウェンはティオリィの視線の先、窓を見た。

窓から見えるのは、さっきの少女。ジェシカだった。
一生懸命荷物を家に運ぼうとしているが…
ドアよりもたんすが大きすぎて、入らないらしく苦戦していた。

くすっとローウェンは笑うと外へ出ようとした、そのとき。
「ロー!あの人を助けるの?」
メアリーの声に引き止められる。それでもローウェンは笑顔を絶やさず。
「困ってる人は見捨てられませんよ」
と言いジェシカのもとへと歩いていった。

「…ローはああいう子が好みなのかしら」
置いていかれたメアリーは一人ぼやいた。


「お困りですね」
「!!」
ローウェンの声に驚いたのかジェシカは肩をびくりと震わせた
「…なによ」
ぶっきらぼうに言い放つと少女はたんすを家に入れる作業を再開した。
…だが、大きさから見て入らないことは明確だ。

「ちょっと貸してみてください」
ローウェンがたんすを受け取り、ドライバーをポケットから取り出した。
そうしてものの5分もしないうちにたんすは木の板に解体されていた。

「こういうのはバラして中に入れてから組み立てるんですよ」
嫌みのない笑顔でローウェンはジェシカに言った。
が、それがジェシカの機嫌を損ねたようで
「知ってたわよ!!」
と赤くなりながら木の板を手に取り運び出した。
そんなジェシカの様子にローウェンは苦笑した

ローウェンも板を手に取りジェシカの家に運び出す。
「誰が手伝えって言ったのよ」
そんなローウェンにつっけんどんな言葉が投げ掛けられる。
「…いや、バラしたのは私なので組立までやるべきかと思いまして」
ローウェンは答える。
その答えにジェシカは返答に詰まる。

…確かに、ジェシカにはどうやって組み立てればいいのか分からなかった。

「…仕方ないわね」
諦めたようで、ジェシカはためいきをついた。
どうやらあまり人に頼るのが好きではないらしい。


片付けを進めていると、ローウェンは荷台に一つの人形を見つけた。
みつあみがかわいらしい、小さな御人形。
乱暴に荷台につまれてはいるが、丁寧に包装されている。

「…あなたはジェシカさんの御人形ですか?」
小さな声で、ローウェンは人形に話し掛ける。
しばらくの沈黙のあと。
「…ジェシカちゃんを、よろしくおねがいします」
と、静かな声で人形が答えた。その様子にローウェンは満足そうに笑った。
「あ、あの、私の声が聞こえるのですか?」
不思議そうに人形がローウェンに問う。

「うん…何故だかね、私は人形の声が聞こえるんです」
苦笑するローウェンに人形は不思議そうにローウェンを見つめた。
その様子に人形はさらに困惑した。

「ちょっとローウェン!何してるの!」
ドアが開きしかめっつらのジェシカが現れる。
そして、ローウェンが手にしている人形を見てさらにしかめっつらがひどくなる。
が、やはりローウェンの笑顔は絶えることなく。
「ちょっとジェシカさんの御人形とお話をしていたのです。」
「はぁ!?」
「人形がお嫌いと言っていましたが…本当はお好きなのですね」
「違うわよ!!それは母が勝手に私にくれたもの。
 捨てたら勿体ないでしょ。だからついでに持ってきただけ!」
「ふぅん…でも、このお人形には愛されてますよ、ジェシカさん」
「は?」
意味不明なローウェンの返答にジェシカは顔を歪める。

「さっきこのお人形が『ジェシカちゃんをよろしくおねがいします』と言ってましたので」
「は?人形が喋る訳無いでしょ!?バッカじゃないの!?」
そう怒鳴るとジェシカは人形をすこし乱暴に抱え家の中へと入っていった。
そのとき

『ジェシカちゃんは少し怒りっぽいんです。ごめんなさい…』
という人形の声がローウェンの耳に聞こえてきた。
まるでお母さんのようなフォローに、ローウェンはくすりと笑った。

「人形に好かれてる…ということは悪い人では無いですね」
ローウェンは微笑んで、また荷物運びを手伝い始めた。




しばらくすれば荷物もすべて運び終わり、部屋は綺麗に整頓された。
大分使われていなかった家のようで、多少埃っぽいが素敵な家になった。

「ジェシカさんは一人暮らしなのですか?」
「そうよ。今日から一人暮らし!それがどうしたっていうの?」
「いや、気になったもので。」
「あ、そう!じゃ、用がすんだでしょ、帰りなさいよ。」
相変わらずのつっけんどんな言葉にローウェンは苦笑した。
ジェシカのいうとおり、することも無いのでローウェンは大人しく帰ることにした。

「一応お向かいさんですし、何か困ったことがあったら言ってくださいね」
玄関の前、ローウェンが言うがジェシカの返答は無かった。
まぁ聞こえただろうと考えローウェンは自分の店へと帰っていった。



ローウェンもいなくなり、ジェシカの家はただ沈黙が続く。
家の中、ただ一人。

「…一人なんて慣れっこなんだから」
少しさみしげに、一人呟くき上を見上げた。すると、目に入ったのは小さなロフト。
今まで片づけに夢中で気がつかなかったらしい。

…何か置いてあるかしら。


そう考えたジェシカだったが、引っ越しで疲れたため見る気分にならず、無くそのままベッドへダイブした。





『ねぇ、新しい人間が来たみたいよ』

『へぇ…遊び相手になってくれるかな…?』

『わたし、はやく遊びたいわ!』
『僕も。でも落ち着いてなにで遊ぶか考えようよ』

『そうね!うふふ、楽しみ楽しみ!!』